009


[My name is Navy.]

Siem Reap最後のお昼御飯、俺はNavyをテーブルに呼んだ。彼はこれまで決して俺と同じテーブルにつくことはなかった。立派なレストランで食べているわけでもないので、彼も同じ店で食べていることもあったが、それでも別のテーブルについていた。彼なりの礼儀なのだろうと思い、俺も無理に呼ぶようなことはしなかったが、最後なのでもう少し話をしたかった。

食事を終えて話をしていると、ビニール袋を手にした子供が店に入って来て、テーブルの横で何かを言っている。どうやら残り物をもらってもいいかと聞いているようだ。Navyは不愛想に皿をテーブルの端によせてやった。子供がそれをビニール袋に入れていると、店の店員がなにやら怒鳴っている。Navyがこれに怒鳴りかえす。おそらく店員はそんなことをするなと言っているのだろう。店としてはこういった子供達に出入りされるのは困るのだろう。

この後一時ホテルに戻りシャワーを浴びてお昼寝。この日は15:50の飛行機でPhnom Penhに移動するのだが、前夜にホテルに頼み込んでそれまで部屋を使わせてもらうようにしてあった。なにぶんこの日も早朝からでかけていたため、そんな時間にチェックアウトできるわけもなかった。

Navyとの約束の時間より少し早めに部屋を出てチェックアウトをすます。が、彼はすでに来ていて、ロビーでテレビを見ていた。

T:「そういえばNavyってどう書くんだ?」
N:「どこか書きます。」
T:「ここに書いてみ。」
N:「こうです。」(得意気)
T:「日本語で書けるのはよくわかったけど、英語だ英語。」(笑)
N:「こうです。」(笑)

ドリーム号にまたがって一路空港へ送ってもらう。約束のお金を渡して空港の待合室に入り、灰皿のある窓際のイスに腰を落着けて一服していると、窓の外にNavyがよってきた。ガラスに顔を押し付けたり、叩いたり、ふざけた顔をしたりしてはしゃいでいる。しばらくはかまっていたのだが、いいかげんしつこいので放っておくことにした。どうやら俺がこれから乗る飛行機でやってくる客を待っているようだ。

飛行機が到着して客が降りてきた。それにあわせてNavyも出口のほうへ移動していった。当然他にも沢山のドライバーが待ち構えているし、バイタクシーを利用する旅行者の数もたかがしれているので、そうそう捕まえられることもないだろうなんてたかをくくっていた。が、しばらくしてNavyが一人の若者を引連れて駐輪場の方へ歩いていくのが見えた。ふと自分が到着したときに、PoliceがNavyを紹介してくれたことを思い出した。きっと彼にはPoliceに強力なコネがあるにちがいなかった。が、彼に巡り合えたのは本当にラッキーだったように思う。ずる賢くなく、約束はきちんと守り、控えめで、思いやりがあって、少しShyで。

そんなことを思いつつ彼の行く手を見ていると、Navyは俺の視線に気がついて細い腕を大きく振った。俺は小さく手を振りかえした...。


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