008


[West Baray]


[貸ベッド屋]


[むし...]

西バライにやってきた。ここへ来る飛行機から見下ろした大きな貯水池は東西に8km、南北に2kmの長方形をしていたが、地上から見ると湖だと言われてもわからない。人はまばらだが、釣りをする人、泳ぎに来ている家族連れ、貸ベッド屋とちょっとした遊び場だ。水遊びをする子供達がとても気持ちよさそうで、俺もひと泳ぎしたいところだったが、足だけつけて涼をとった。

Navyの話では、夕方の日の沈む頃になると恋人達のデートスポットになるそうだ。二人並んで腰を下ろして、しばし話し込む。

T:「Navyもデートとかするの?」
N:「私は友達と来て花火をしたりするくらいです」
T:「彼女つくって一緒に歩いたりしたい?」
N:「したい...」
T:「一緒に歩こうか?」
N:「だめ...」(笑)

などと他愛もない話をしていると、Navyが何か思い出したように立ち上がり、ちょっと待っててと言い残して通りに出ていった。たばこをふかしながらのんびりした気分を満喫していると、何かを買って戻ってきた。いたずらっぽく笑った彼は、そのビニール袋をあけてみせた。

N:「じゃーん」
T:「うげ、なんじゃそりゃ」
N:「一緒に食べる」
T:「どうやって食べるんだ?」
N:「羽を取って中身だけ食べます、こうやって」
T:「ほう」

おそるおそる手に取ってみる。甲虫を炒めたものらしいが、その黒さと油の照り具合から一見ゴキブリにも見える。もともと黒いのか、炒めたから黒くなっているのかはわからない。彼はまず羽をひっぱがして、背中からお尻にむけて前歯でそぐようにして中身を食べている。せっかく振る舞ってくれたので見よう見まねで食べてみるが、足ももぎ取っておいた方が食べやすいようだ。お味はというと、魚介類系の佃煮と言った感じでけして悪くない。うーん、御飯が欲しいな。しかし如何せん見た目がグロテスクだ。

N:「美味しいでしょう?」

そう言って笑う彼の口からは、黒い虫の頭がのぞいていた...。


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