003


[旧市街広場]


[カレル橋とプラハ城]


[衛兵交代式]


[ローストポーク]

T:「いいじゃん...」
早速街にでた彼は、とりあえず共和国広場から王の道をたどってプラハ城へ行くことにした。ワルシャワでは天気に恵まれず肌寒い感じだったため、今ひとつ気分ののらなかった彼だが、ここプラハは快晴で暑いほど。上着を脱いで歩き出す彼の足取りは軽い。旧市街広場では、頭に鳩がとまってちょっとお間抜けなヤンフス像の足下で、話をしている人や待ち合わせをしている人が腰をおろしている。天文時計の前では、写真を撮ったり、仕掛けが動きだすのを今かと待っている観光客たちが目に付く。カレル橋の上では、絵描きやバンドの演奏に人だかりができ、丘の上のプラハ城では正午に衛兵交代式が行われ、聖ヴィート大聖堂の塔に登ればプラハの街が一望できる。中世ヨーロッパのテーマパークと言ってもいいほどに、いたれりつくせりな町並みが人々が引き付ける。
「写真とってもらっていいですか?」
王の道を行き来する人たちのうち、どれだけの人が観光客なのだろうか。ゴールデンウィークということで日本人旅行者の姿も多く見られる。団体旅行のグループだったり、個人の家族旅行風、お友達旅行風、カップル風、一人旅風だったりと、旅のスタイルも様々だ。個人旅行者の中には何も海外まできて日本人を見たくないとかで、日本人に人気の街をさけたり、日本人に会っても挨拶すらしたがらない人が少なからずいる。が、彼にはそんなこだわりはいっさいなく、見たいものがあればその街を訪れるし、日本人とも普通に話し、情報交換をしたり、ときには行動を共にすることさえある。ミュージアム等で日本人の団体を見つけると、これ幸いと付いて行って少し離れたところからガイドの説明を盗み聞きしたりと、ちゃっかりした一面も持ち合わせている。まぁ、そんな彼でも時には生理的に受け付けられず、関わりたくない人もいるのだが...。
「どうしたの?普通じゃん。」
彼がプラハに行くと言うとこんな反応をした人がいた。ちなみにポーランドとチェコとスロヴァキアに行くと言うと「またそんなとこに」と言われる。プラハってチェコにあるんですけどねぇ...。こんなことからもプラハという街が日本人にとって人気の旅行先であるということが分かる。それと同時に彼の周りの人間は、「奴は変わったところ好き」というイメージを持っていることがよく分かる。「いついつ休みます」と言えば「今度は何処へ」と何かを期待した顔で聞かれるのだ。彼にとってはどこの街も一緒であるし、これまで人気のある街にも数多く足を運んでいてむしろ変わったところの方が少ないし、変わっていると言っても程度としては軽い方だと考えている。まぁ、「変わったところ」の判断基準は人それぞれだし、一度でもそんなところへ行けばそのイメージが固定されてしまうのは仕方ないということで彼はあきらめているが、周りの期待に答えて行き先を決める気はさらさら無いらしい...。
T:「ヴェプショー(ローストポーク)」
夕方、込み合ったビアホールに歩き疲れた彼の姿があった。少々無愛想なホール係のおやじは彼をテーブルへ案内するが、そこには若いカップルが座っていて、ずいぶんと長い間話し込んでいたようだった。相席かなと思っていると、おやじは何やら言うとさっさとテーブルを片づけはじめ、二人に会計をさせて追い出してしまった。二人はもう少し話たかったようだが、あからさまに文句を言うこと無く出て行った。お客さまは神様ですという国からやってきた日本人にとって、ときどきその常識から外れたことに出くわすものだが、それが当たり前となっている社会では極めて合理的と言えることが多い。彼はと言えば「へぇ〜、なるほどねぇ」と感心しながら、出されたローストポークを頬張り、付け合わせのクネドロ(蒸しパンのようなもの)や温野菜に顔をしかめるのだった...。
T:「これかぁ...。」
プラハ一日目の夜は、夜行列車の疲れもあって早い時間に部屋に戻って寝てしまった彼だが、二日目の夜は8時頃にホテルに戻った。鍵をもらって二階へ上るとレストランで不必要に派手で露出の多い服装の女の子達がうろうろしていた。どうやら夜はクラブに様変わりするらしい。ここでホテルのおじちゃんの話で聞き取れなかった部分を彼は思い出した。なるほどとか思って振り向くと、部屋へ行く廊下の入り口にはダークスーツに黒いサングラスという不必要に威圧感を漂わせた出で立ちのお兄さんが座り込んでいて、人の出入りをチェックしている。彼が近付いて行くとお兄さんは行く手を阻むようにして立ち上がったが、部屋の鍵を見せるとサングラスを外し、にっこりと笑って見せて彼に道を譲った。彼はなんだかマフィアの幹部にでもなったようで、気分がよかったようだ...。

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