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[チェスキー・クロムロフ城]


[チェスキー・クロムロフ町並み]


[概略位置関係図]

T:「うーむむぅ...。」
チェスキー・クロムロフで一泊してさんざんうろうろした後、彼は再びチェスケー・ブディェヨヴィツェに戻ってきて駅で考え込んでいた。次に目指す街はスロヴァキアの首都ブラチスラヴァだった。ヨーロッパの駅では行き先を伝えると、乗り継ぎなども含めて適当な電車のタイムテーブルをプリントアウトしてくれるところが多い。これによると行き方は2通り。ここからブルノへ行って乗り換えて夜遅くに到着する方法と、一旦プラハに戻って夜行列車に乗って翌朝到着という方法だ。彼の頭の中にはもう一つ、オーストリアに抜けてウィーンを経由する方法もあったが、彼の性格からしてウィーンを素通りできる訳も無く、寄り道して落ち着いてしまう危険度が非常に高い為にこのルートはとりあえず削除されたようだ。
T:「よし。」
夜遅くに国境を超えて新しい街に到着するというのは、宿探しの面からも両替えの面からも避けたいところだが、宿でゆっくりと眠れるというメリットがある。一方プラハ経由は遠回りだが、乗り継ぎや到着の時間がよく、夜行列車なので宿泊代が浮くというメリットがある。このとき彼はブルノ乗り換えの夜到着という方法を選択した。一人旅では色々な局面で様々な選択を自分一人でする必要があるのだ。そしてその選択が間違っていたとしても、誰のせいにもできない。全ては自分が選択したことなのだ。一方で、自分さえ受け入れられればどうでもよく、誰にも迷惑をかけないという気楽さがある。
車掌:「切符を拝見します。」
この選択が少々面白いことになっていく。ブルノ行きの電車に乗り込んでまもなくしたころ、体育会系のやたらと爽やかな若い車掌がやってきた。切符を見せるとなにやら片言の英語で説明を始めるが、はっきり言って彼にはよくわからない。彼の頭の上に?マークが3つ並んでいるのを見て取った若い車掌は、紙とペンを取り出して路線図を書き出した。それによると、この電車は途中工事をしているところがあって、その区間はバスに乗り換えて移動する必要があるということだった。若い車掌はなんとか通じたとほっとしたのか、これまた爽やかな笑顔を見せる。が、はいそうですかと言う訳にはいかない。そんなことは切符を買う時に言ってくれと言いたいところをグッと堪えた彼は、駅でもらったタイムテーブルを持ち出して、ブラチスラヴァへいく電車にちゃんと連絡できるのかを聞いてみた。そうすると若い車掌は大きく頷いた後にこう言った。
車掌:「多分...。」
その言葉を聞いて一気に力の抜ける彼。「そんなことは私にもわかりはしない」と言って若い車掌は立ち去っていった。さて、連絡できないとなると彼の予定は大きく変わってしまう。うーんと考えてみたものの、連絡できなかったときにまた考えようと、彼はあっさりと開き直るのだった。そうそう、既に電車に乗って走り出してしまっているいじょう、考えたところでどうにかできるわけでもなく、成り行きに身を任せるしかないのだ。はたして電車は止まり、バスに乗り換える。ちゃんと乗り換えている彼を見つけた若い車掌は嬉しそうに手を振っている。この爽やかさが彼に反感を抱かせているとも知らずに...。
駅員:「もう出たわ。」
再び電車に乗り換えてブルノに到着。ブラチスラヴァ行きの列車の時間はとっくに過ぎていたが、駅員をつかまえて確認してみると、すでに出てしまっていることを冷たく伝えられる。諦め半分に聞いてみた彼だったが、これまでの経緯を知らない駅員にとって彼は「変なことを聞く外人」にしか見えなかったに違いない。さて、彼はどうするのか。考えられる選択肢は2つ。ブルノで宿を探して翌朝ブラチスラヴァへ向かう方法と、このまま深夜まで駅で過ごし、プラハからやってくる夜行列車に乗り込んで早朝到着する方法だ。切符は24時間有効なのでどちらでも無駄にはならないが、既に暗くなって人通りの少なくなった街に出て宿を探すか、夜中の3時過ぎまで一人駅で過ごすか。さて、どうする...。
T:「やれやれ。」
待合室を見つけてベンチに寝転び、仮眠に入った。彼は夜行列車を選択したようだ。この夜行列車、最初の選択で外された、プラハ周りのルートにあったものだ。つまり初めからプラハ周りを選択しておけばこんなところで過ごすこともなかったのだ。このとき彼はどんなことを考えていたのだろう。
T:「このベンチ寝心地悪いな...。」
気にもとめてないようである。やれやれ...。

つづく...。


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