009


[中央市場広場の織物会館]


[白塗りの動かない人]


[マラソン大会]


[ヴァヴェル城]


[ライトアップされた聖マリア教会]

T:「ふぅ...。」
クラクフ二日目。彼はクラクフでは2泊を予定していた。プラハ以来の久しぶりの連泊(というか、プラハとクラクフでしか連泊してないじゃんか)ということで、気分的には大分余裕が有り、朝食もいつもよりゆっくりといただく。旅も終盤となり、あとはこのクラクフの街を見れば思い残すことは何もなかった。彼の残りの計画は、この翌日の適当な時間(最悪でも夜)にワルシャワに戻って一泊し、その翌日の朝に空港へ行って帰国の途につくというもうのだった。はたしてこれを「計画」と呼べるかどうかは疑問であるが、彼にとってはこれで十分だったし、時間を持て余すようならその時にまた考えればいいといった具合だった。そんな彼は何も考えずとりあえずホテルからすぐの中央市場広場へとお散歩気分ででかける。
T:「お...?」
広場ではなにやらイベントをやっているようで、大きなバルーンがでており、お巡りさんが2、3人のチームを作ってあちこちで目を光らせている。ストリートパフォーマ達がところどころで得意の持ち芸を披露している。バイオリンやアコーディオンを奏でる者もいれば、白塗りの動かない人もいれば...。そんな彼等をひとわたりひやかしたあと、南へ向かって歩を進める。歩道と車道はロープで仕切られており、何かと思っていると向こうから石畳の上を走ってくるマラソンランナーが目に入る。歩道から声援を送る人もいれば、道ぞいの建物の窓からじっと見下ろしている人もいる。皮肉と言うべきか第2次世界大戦でドイツ軍の司令部が置かれたために戦災を免れたと言われる歴史的な町並みの中で、彼はそんな人々の明るい表情を眺めていた。
T:「さて、どうしたものか...。」
日が差したり、雨が降ったりを繰り返すという今ひとつぱっとしない空模様だったが、美しい町並みに彼がシャッターを押す回数は自然と増えていく。ヴァヴェル城を一回りした彼はこの城をどこから撮ってやろうかと思案していた。彼は気に入った写真を撮るためには異常と思えるようなこだわりを見せる。ここでも彼は何度かシャッターを押したものの、なかなか満足のいくものは撮れていなかった。おもむろに地図を取り出した彼は、この城がヴィスワ河畔の丘の上に建っていることに気付き、丘を降りはじめる。どうやら彼は川の向こう側からこの城を狙うらしい。「こだわり」と言うよりは「物好き」と言った方が表現としては適切かもしれない。
T:「うーん...。」
そんなわけでてくてくと川を越えてやってきた彼だが、まだ満足していないようだ。アングルとしては満点なのだが、城の上には暗い雲が覆いかぶさっていた。不本意ながらもカメラに納め、すぐ横にあった日本美術・技術センターを覗いてみることにする(質の高い浮世絵のコレクションが有るとともに、日本文化を伝えるカルチャーセンターとしての役割も担っているところ)。広重展を満喫し、翻訳された日本の本やマンガをぱらぱらとめくり、頬に絵の具で「花」とか「愛」とか書いてもらって嬉しそうにしている子供達を眺め、折り紙やお手玉で遊ぶ子供達をからう。そんなことを小1時間ほどしてから再び外にでる。しかし、城の上には相変わらずどんよりとした雲が横たわっていた。こればっかりはどうしようもあるまい。
T:「いけるか...。」
空を見上げた彼は雲の切れ間を見付けた。雲の流れをしばし見つめた後、タバコに火を付けてベンチに腰を下ろす。待つこと15分位だろうか。雲の切れ間は見事に城の上までやってきた。ここぞとばかりにカメラを構える彼。ここまでくると「物好き」なんて生易しいものではない。まったく開いた口がふさがらないとはこのことか。そうまでした写真に彼の満足度は?
T:(いまいち...。)
だそうだ...。

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