003


[Camels]


[The Pyramid of Giza.]

しばらくするとGizaのピラミッドが見えてきた。エジプトと言えばこのGizaにある三つのピラミッドとスフィンクスだが、それが砂漠の真ん中にあってラクダに乗って行くと思っている人は意外に少なくない。それは多くの写真の背景が砂漠になっていて、はじにラクダが写っていたりするからだろうが、その手前にはGizaの街があって、そこからは歩いて見て回ることができる。もちろんラクダに乗ってエジプト気分を盛り上げてもかまわない。車を止めてなにやらまた建物に入っていくセイェド。中に入るが何も置いていない。今度は何?。待つこと5秒くらい。ラクダ屋だ。だからいらないんだってば...。

写真のよく撮れる場所に連れてってやると言うラクダ屋のおやじやら、こっちにいいところがあるから案内してやると言う兄ちゃんやら、お土産を抱えた子供やらの声をBGMにとことこ歩いてスフィンクスに向かう。見向きもせずに歩いていると、一人の少年が声高にこう言った。

少年:「ヤマモトヤマ!」
ときどき妙な日本語を知っている奴にでくわすが、いったい誰に教わっているんだろうというか、いったい誰がこんなことを教え込んでいるんだろう。この場合は固有名詞なので、日本語でもなんでもないという説もあるが。これには思わず足を止め、振り向いて笑ってしまった俺。せっかくクールに決めてたのに...。笑ってしまったが最後、「ヤマモトヤマ」の大合唱が始まる。こうしてしばらくは、日本人を見ると「ヤマモトヤマ」と言うのが、彼等の間で流行するに違い無い。迂闊だっただろうか...。何か別の言葉を教え込むか...。何がいいか...。

そんなどうでもいいことを考えつつ、クフ王のピラミッドの方へ。中の玄室へ入るチケット売り場に行くと閉っている。そばに居たおやじの身ぶり手ぶりからすると、今日はもう入れないと言っているようだ。まだそんな時間じゃないだろうと思いながら、太陽の船博物館、カフラー王のピラミッド、メンカウラー王のピラミッドを回るがどこも入れない。ここで初めて、ラマダンのせいかもしれないと思い付く。悠長にセイェドに付き合ってる場合ではなかったようだが、まぁいいか...。

写真を撮るのに夢中になって、立ち入り禁止区域に足を踏み入れ、ラクダに乗ったお巡りさんに怒られながら戻る。GizaからCairoに帰る途中は、夕暮れ時が近付いているせいか、家路に急ぐ車でごった返しており、クラクションがあちこちで鳴り響いている。みんな空腹で苛立っているのだろうか。と、パピルス屋へ入っていくセイェド。まぁ、次から次へと...。ひとこと「いらない」と言えばしつこくされないのでまだ救いだ。とりあえず、パピルスの作り方やら、偽物の見分け方やらを教えてもらう相変わらずな俺。が、猛烈な眠気が襲ってきた。そういえば、昨日着いたばかりでよく寝てないんだった。

T:「ほら、行くよ...」
店の品には見向きもせず、こう言いながらセイェドの手を引き上げる。キョトンとした顔をして立ち上がるセイェド。こいつは本当は俺の言うことは全部わかっていて、でもわかってないふりをしてるんではなかろうか。そんな疑惑が一瞬よぎる。お前少し芝居がかってないか...。

やっとのことで宿に戻ると、モハメッドや従業員達が、ロビー(というほど立派なものではないが)で十数時間振りの食事にがっついていた。俺にも食べろというので遠慮なく席に着く。こんなに食べきれるのかと思いきや、テーブル一杯に広げられた食べ物はあっという間にたいらげられてしまった。さて、お腹も一杯になって、眠気も最高潮に達する。「列車の時間になったら起こしてね」と言い残してベッドに倒れ混み、深い深い眠りにつく。

T:「いいかげんにしろ、セイェド」
そんな寝言を言ってたかも知れない...。


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