004


[イシス神殿]


[ナイル側越しの夕焼け]

どれくらい寝ていただろうか。従業員に起こされて目を覚ます。時計に目をやると、夜行列車の時間まで30分くらいしかなく、慌てて起き上がる。

T:「もっと早く起こしてくれなきゃ困るじゃんか!!!」
従業員:「何度も起こした...」
T:「...」
そんなわけで駅まで車で送ってもらった上に、ホームまで一緒にきて指定の車両まで案内してくれた。おかげさまで、売店で夜食と飲み物を買い込んで一服する余裕もあった。怒ったりしてごめんよ...。そんなことを思ったかどうか記憶がないほど、すばやく眠りに着く。

目を覚ましてからしばらくすると、アスワンに到着。多くの旅行者が同じ列車でここへやってくる。まだ朝早いというのに、一日に何本もないこのタイミングを多くの客引き達が待ち構えていた。ふと、目の前にカイロで同じ宿に泊まっていたカナダ人親子4人が歩いているのが見えた。声をかけようとしたその瞬間、その親子に客引きがわっと群がる。当然のことながら、独り者よりも、多人数の方が狙われやすい。しかも4人だ。次の瞬間、その横をそ知らぬ顔ですり抜ける俺。だって...いや...その...。

ここアスワンへは、アブシンベルへの足掛かりとしてやってきた。適当な宿にチェックインし、ロビーでくつろぐ旅行者に声をかけ、アブシンベルへの行き方を聞く。というのも、俺の持っているガイドブックにはワゴンで行く現地ツアーがあるとのことだったが、カイロでモハメッドに聞いたところによると情勢悪化の為、いまではワゴンツアーは無くなっていて、飛行機でしか行けないとのことだった。とりあえず見積もってもらったものの、「現地に行ってからでは手配が間に合わないからここでしたほうがいい」という彼の言葉にうさん臭さを感じて断わってきた。

だが、ここでも皆が口をそろえて「飛行機でしか行けない」と言い、「高いからあきらめた」という若者も多い。どうやら本当だったようだ。とすればこのガイドブックだ。しかし、俺のもっているそれは4年前のものでしかも借り物だ。こんな情勢不安定な国に来るのに、最新のものでもあてにできないのに、よりにもよってそんな古本とくればもうゴミ同然。やれやれ。でも、せっかくここまできて諦めるわけにはいかないし、少々高いけど航空券手配するかなぁ。そんなところへ、背後から声が...。

男:「アブシンベル行くの?」
T:「うーん...」
男:「いつ?」
T:「できたら明朝に行きたいんだけど、航空券がねぇ...」
男:「大丈夫、俺に任せてよ」
T:(なんだよお前、旅行社の奴かよ...)
このなんともタイミングのいい男はオマーンと言った。電車の時間に合わせてたった今出勤してきたといった感じだった。オマーンくんは、浅黒い肌で体格もよく、派手な開襟シャツに黒のスラックス、大きめのサングラスという出で立ちで、携帯電話と鍵束と小銭の入ったポッケに手を突っ込んでチャラチャラ音を鳴らしている。エジプト人のイメージからは程遠く、根っから陽気といった印象を受けるが、そのうさん臭さといったらモハメッドくんの比ではなかった...。
T:「で、いくらだ...?」

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